蝶々と戦車

 ヘミングウェイ がスペイン内戦で体験した、くだらない理由で命を落とした男を目撃した場面を描写した短編。物騒な世相のなか、酒に酔った男が結婚式の余興のための水鉄砲をバーの店員にかけ続け、客の中にいた軍人が放った銃弾に斃れる。スペイン人は、あれは悲劇だった、まるで蝶々と戦車だ、短編を書くならタイトルはそうつけてくれ、と著者に語ったが、ヘミングウェイはあまりいい反応をしない(しかし作品になっている)。

 内戦状態にある、強権政治の国にいる者の中に、武器を持った人間には通じない過ぎた悪ふざけをやって、命を落とす者があることは、報道を通して知ることができる。日本国内ではそこまで極端な悲劇が起こることは少ないが、違法行為の露見などで、死ぬことはなくても大きな損失を被ることがある。

 蝶々の知覚と行動原理で、戦車と砲弾の世界に迷い込んでしまうことで、これまでの世界観から言って理不尽な打撃を受けてしまう。このギャップに対する反応は、蝶々が知る限りの防衛術である。ひらひらと飛び去ろうとする蝶々は、戦車にとって目障りな存在であり続ける。戦車に見過ごされるための行動は、蝶々の世界理解の外にある。それゆえ、蝶々は気の短い戦車に轢き殺されることがある。