『「家族の幸せ」の経済学』メモ

 

「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実 (光文社新書)
 

  本書は、著者が研究の対象としている結婚、出産、子育てなどを扱う「家族の経済学」についての最新の研究成果を一般に紹介したもの。論理展開、エビデンス、気を使った言葉遣いが徹底され、豊富な研究の引用から、何がどこまでが明らかにされているかを幅広く触れている。注の文献はほぼすべて英論文、日本語で類書はない。政策への言及がはっきりしていて、この成果が十分多くの政治家・厚労省職員に伝わっていることを祈る。個別の家族に対しては、「自分の子育ては特殊か?」といった悩みにはヒントが得られる部分があろうと思う。しかし当然家族のあり方の意思決定がそれぞれに試行錯誤されることは本研究分野の進展に関わらず変わらない。著者も試行錯誤する父である姿がところどころに触れられている。

メモ

 1章―結婚の経済学―結婚はそもそもリスクの分かち合い、分業の利益、費用節約のために行う。きっかけの「場所」はオフラインが減りオンラインが増えている。海外のマッチングサイトのデータを用いた研究はユニークである。

 2章―赤ちゃんの経済学―赤ちゃんの出生体重が高いと、健康や所得などに正の影響がある。帝王切開は余計に行われる恐れがある(米国の研究では少子化⇒出産率現象⇒収入減⇒より報酬高い帝王切開を選択、という例が報告されている)。帝王切開で生まれた子どもが問題を抱えやすくなるのは肺・呼吸器・免疫発達だが、注意欠陥、多動性、自閉症には関係ない。働く女性の子どもは低体重になりやすい。かつては生きられなかった子どもを助けられるようになったのも、低体重児増加傾向の一助。電車で席を譲るなどの配慮は重要。母乳育児により生後1年の胃腸炎や湿疹が減り、また理由は不明だが赤ちゃんの突発死は減る傾向があるが、肥満、アレルギー、ぜんそくの防止効果は確認されない。母乳育児でないことで知能へ負の影響が出ることも確認されない。選択は個人の判断が尊重されるべき。

 3章―育休の経済学―育休制度は、雇用保障と給付金の2本の柱から成り立っている。親が仕事を続けるうえで、母は職場復帰がスムーズになるように働きやすさへの好影響があるが、長すぎると逆効果。米国IT企業は制度充実で人材確保の例がある。オーストリア・カナダ・スウェーデンデンマークの研究では、生後1年で母と過ごした期間の長さは、子どもの将来の進学・所得にほぼ影響を与えていないと示された。育休の先行研究を踏まえて理論を織り込んで予測すると、日本では1年の育休は母の就業に正の影響があるが、3年の育休に追加的効果がなく、3年の育休は制度として不要と示された。給付金の充実よりも、保育園の充実を政策として重視すべき。

 4章―イクメンの経済学―日本の2017年度の父の育休取得率は5%で過去最高だが女性に対しあまりに低く、海外に比べても低い。北欧3国では父の育休取得は7割に上る。北欧の父たちもキャリアへの悪影響や上司・同僚の目を気にするが、一部の人が勇気を出してとる⇒キャリアに悪影響なし⇒周囲もとるという好循環があって拡大した。ある北欧の研究では同僚や兄弟に育休取った人が居たら、とる率が11~15%増加した。日本では、サービス残業禁止の徹底などのキャリアに不利にならない法整備、会社からの上乗せ給付、そうした実態を育休取得者が他の社員への共有、という段階を踏む必要がある。父が育休を取得すると、ノルウェーの例では4週間の育休でその後の収入が2%減り、育休後も子育て・家事に熱心になるからと考察されている。スウェーデンの研究では、父が育休を取っても熱を出した時の看病を増加させないが、子の16歳時点での偏差値を1高めた。ある研究では、父の育休は1か月間でも、子育て、家事時間が平均数十分増え、ライフスタイルを変えたことを示した。アイスランドでは父の育休で離婚率を減らしたが、スウェーデンでは増やしており、違いの理由は今後の研究が待たれる。

 5章―保育園の経済学―保育政策においてあまり顧みられない当事者としての子どもへの影響を示す。幼児教育の場としての保育園は、IQだけでなく社会情緒的能力を改善する。ヘックマンの「ペリー就学前プロジェクト」は40歳まで長期追跡調査された保育プログラムだが、それによれば保育園によって将来の高校卒業率、就業率、収入を増加させ、生活保護率や警察逮捕回数の減少があった。社会生活面で大きな効果を発揮するのに重要だったのは、周囲の人々との間で軋轢を生ずる問題行動を減らしたことである。大規模な施策だったが犯罪の減少や社会福利費用の減少などを総計して、社会によっての収益率が7.7%と費用を超えて高い利益を上げる優良プロジェクトだった。ただ、日本版の同様のプロジェクトの効果は、もともとの犯罪率の低さや教育の質の高さから、低かろう事が想定される。それでも日本にも示唆する所があり、保育園は恵まれない子供への幼児教育効果がより高いということであり、国は保育士の一定の質を確保する政策を重視すべきである。また著者の研究によれば保育園は母の幸福度にも好影響がある。待機児童解消を伴わない幼児教育の無償化を進めるより、所得の高い仮定にはより高い料金を課すなどしつつ、認可保育所の供給を増やすために予算を使うべき。

 6章―離婚の経済学―ある年について(離婚件数)÷(結婚件数)で出された3人に1人が離婚しているという表現は正しくない。なぜなら、離婚した夫婦は結婚件数の多かった過去に結婚しているから、分子の離婚件数が結婚件数に対して過剰な数になるため。制度が変わって離婚しやすくなることは不幸とは限らず、いざというときに離婚できることがDVの抑止になることが米・スペインの研究で示されている。離婚しにくくするのでなく、離婚後の金銭・学費・給食・医療補助などの子どもへの直接のフォローが重要。共同親権は日本での導入に至るには「子どもの最善の利益」にかなっているのかが重要だが、十分なエビデンスはそろっていない。