趣味の読書のフィードバックの深さと多様さ

 

 (趣味としての)読書は、想起されることに価値があるとある知人が言った。彼の議論によると、読んだ本を通じて感じたことを共有するプラットフォームがあれば、今ニュースサイトを流し読みしている人たちや、漫画アプリ愛好者などの可処分時間を、読書を通じたコミュニケーションに差し向けることができる。
 私は彼の意見に同意する。本を通じたコミュニケーションが行われる形はどうあれ、読書を通じて何も考えないならば、彼らのコミュニティで通用するニュースサイトやまとめサイトでも読んでおけばよい。彼はほかに、流行している本についてはより注目が集まるようなメカニズムを提案していたが、互いに興味の持ちそうな、目に入るものを絞ることができることは効率がいい。昨日見たテレビを話すほどではないが、共通の分野の本を読んでいる人同士の読書は共通点を持ちやすくなるだろう。少数の人だけが読んでいる本についても、Amazonのように「この本を読んだ人はこんな本も読んでいます」と、他者の読書に繋がりそうだ。
 ただ、コミュニケーションの手段としての読書は、消閑の具、浅薄なものに終始してしまいそうだ。話題だったからといって読んでも、読んだ当人が作品の外へ向けた感想を持たなければ、次の読書やそれ以外の行動に繋がらず、一過性の話題、短い流行になりかねない。きちんと筋を追ったり、映像を想像したり、分からなかったところを遡って行間を読み込んでいると、一人でいる時間は結構長い。ニュースや漫画に比べて、そこから拾い上げることのできる情報は、時間対の量で考えると、少ないし、そもそも言葉を尽くしても相手に伝わりづらい、重いコミュニケーションになる。話の種にしたいだけで、そこまでは誰も望んでいないとなると、ひととおり目を通して、自分が読んだという証拠だけつかんで満足してしまいがちになる。

 近代の文学者たちは、素読からの伝統もあり、活版印刷するコストの問題もあり、ワープロもインターネットもないから、声に出して読む、同人で寄り集まって互いの作品を音読する、全体を書き写し取るなど、より時間のかかる方法をとり、十分に彼らが書いているものについて思索をした。それが仕事に必要だったからとはいえ、読むことに関する桁違いな執念のエピソードは枚挙にいとまがない。夏目漱石はイギリス滞在時に間ハエの頭ほどの字で英書のノート数十冊を埋めたとか、菊池寛大西巨人に1000冊を3周読めと言ったとか、三島由紀夫は学生の時に辞書を3周読んだ、などなど。近現代で、どれほど一般の読書の習慣が失われたかについたは、データを別途参照しないといけないが、現代日本人が、ネットやテレビを見ているすべての時間を投じるような読書の習慣を生活に取り込むことは難しくなっている。よほど生活を犠牲にする環境・きっかけがなければあり得ない。

 しかし、現代人に本を深く読み込む時間がないにしても、本を読んでコミュニケ―ションをとる人々でみた総和の読書時間は、かつてよりも大きくできるだろう。そういった環境の変化で本を読んだ感想も間違いなく多様に交わされるべきであり、いかなる本も、他者の評価はさておき私はこれについてこう感じた、という読みがもっと評価されるべきだと私は思う。少し感情が揺れただけであっても、あとでその一節を読み返すと、作品全体との響きであったり、隠されていたメッセージであったり、他人には意外と見えていない一面を示すことができる。そういった読書が作品に結びついて積み重なれば、一度読んだ人にも発見があり、まだ読んでいない人にはじゃあ読んでみようというきっかけになり得る。

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 その結果現れたのが、ブクログであり、読書メーターなのだろうが、飛躍すれば、それらの機能で、作品の何ページ目へ直接リンクを飛ばして紹介できるような仕組みがあるとより面白いかもしれない。情報源へのリンクのよくまとまっているブログは面白いし、引用はもっと書き手にも読み手にも簡便な方法があっていいと思う。

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 Amazonは、新刊を探すときの類書おすすめのアルゴリズムが買う本のリストを作るのに有用だが、レビュー欄も、当たりはずれを見極めるのには使えたり、たまにその分野に詳しいと自信ある人の解説を見ることができる。通常は、消費者として一般的な感想を志向しているか、わかっているっぽいと評価されて「いいね」がついたレビューが、上位に表示されるだろう(badがたくさんついても、賛否の否の方で上位に出すケースもあるらしい)。当然ながら、私はこう思った、という多様な考えが一様に評価されることを志向していないが、Amazonは買い手に参考になればいいから、それでよさそうだ。

 ブクログ読書メーターのユーザーは、もっと大胆に自分なりの感想を深めて、運営もそれをこそ評価するアルゴリズムで表示し、宣伝もしてゆくとよいのではないかと思う(Googleはユニークな情報で長文だったら上位に表示する仕組みがあるらしく、そういったアルゴリズムは搭載済みかもしれない)。

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 自分なりの読みをして、それが全体で多様性をつくり出す仕組みがあれば、本を読むことを通じて社会に多様なフィードバックが得られるのではないだろうか、ということを上に述べた。

 だが同時に、趣味の読書だったらどうでもいいことはどこまでも手を抜くべきだ。要約だけ知る、解釈の別れる論点を抜き出して考える、自分なりにふと思ったことから深めて考えるなど、どれくらいの距離間で読むかをあらかじめ決めるという観点は、仕事ならもちろん趣味でも役に立ちそうだ。

 本の背表紙にあるあらすじや解説だけを読む読書があっていいし、出版図書目録を端から端まで見るのも面白い。オビのアオリもじっくり見ると考えがいがある。そうした手を抜いた読書から、しっかり読みたいと思える一冊が自然と現れることがある。その一冊に至る過程も、読んで何かを得ようというつもりでいるなら、きっとポジティブな要素になるだろう。同様に、アブストラクトを読んで読まない論文を決めることがあるように、はじめに、あとがき、解説を読んで読むのを止めるのも読書の醍醐味だろう。

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 本を読むことに拘泥したが、読む行為はあらゆる趣味にも関係している。なんでも感じ取ることのできる一部の天才を除けば、経験則のルールであっても、目にしたものの裏にある原理を読み取る行為が前提にあるわけで、解釈の深さや多様さは意識した方が、何事も楽しみを増やすことにつながりうる。

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 ここまで書いて気になってふと、目録を探してみたところ、無料で提供されているものが意外とある。すべてではなくて、出版社によって提供の仕方はまちまちであるようだ。これらの目録は大型書店で無料で頒布されていたり、有料の目録も販売されている。図書館にも置いてある。新潮文庫、角川文庫は無料版目録はないが、夏の100冊は無料配布冊子は毎年楽しみだ。

  目録で本を探すとなると、出版社で区切ったり文庫や新書などに限定する幅の狭さがあるが、その範囲でどういった本があるかをひととおり見るのも、図書館や大型書店の一つの棚を見るのとちょっとずつ違う楽しみがあって良いと思う。

 以下は無料でpdf形式で入手できるか、Kindle上で利用できる、新書・文庫の目録のごく一部の例。

www.iwanami.co.jp

www.chuko.co.jp

www.chuko.co.jp

講談社現代新書 解説目録 2019年3月現在

講談社現代新書 解説目録 2019年3月現在

 
#光文社新書この一冊?1000点突破記念?

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光文社新書 100冊セレクション

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角川ソフィア文庫目録2019

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新潮新書 解説目録(2019年4月)

新潮新書 解説目録(2019年4月)

 

  以下、少し古いが、最新の数年分はHPで遡れることを考えれば、十分にありがたい。

www.hayakawabooks.com