『「砂漠の狐」ロンメル』感想

 

  AmazonPrimeでは『砂漠の鬼将軍』を観ることができて、熱い戦車戦が見れると思っていたから大変がっかりしたが、気に入られていながらも晩年にヒトラーを裏切って加担した暗殺計画が失敗し、家族を盾に名誉のうちに自死を迫られたロンメルの晩年がドキュメンタリーに描かれていた。 

 1950年代前半、終戦後直ぐにこうした映像を作れたというのは、敗戦国要人の供述を横流しするプロバガンダ的な支援があったにせよ、すごい国だな、と第一に感じた。しかもどちらかというとロンメルチャーチルが敵ながらあっぱれと誉めた軍人で、終始同情的に描かれている。国民感情を考えると、戦争に関して国に不利益な情報は一概に秘密にしてしまおうと考えるものだと思ったが、どういうロジックがあったんだろう。

 内容に関しては、わくわくして観るものじゃなかったが、緊迫感があって興味深かった。軍人の息子が無邪気に死にに行く父を敵をやっつけてきてくれと見送るシーンにぐっとくるものがある。また、「格言を並べたような戦略では戦争に勝てない」など総統の愚痴を言っているシーンは、組織のトップがイカレていたら? というときに与える評価として今でも通用しそうな言葉に感じて面白い。

 一方の『「砂漠の狐ロンメル』は、軍人生活のスタートが傍流から始まって、毒をあおるまでのロンメルの来歴が、最新の学説に基づいて記されている。

 軍閥として傍流のヴュルテンベルク軍に学び、砲兵・工兵のコースに行けなかったことが災いして本来昇進の望めない軍歴だったが、第一次大戦フランス軍ルーマニア軍へ仕掛けた緒戦で評価され、かつロンメル自身が喧伝し、保守的なプロイセン軍人を嫌ったヒトラーに認めらた。第二次大戦の当初は第七装甲師団をなかば独断専行に縦横無尽に指揮し、敵味方に幽霊師団と称されるほどの指揮活躍をした。

 しかし、戦略の水準ではとびぬけた才能を持ったロンメルが、幼年学校など、作戦次元の英才教育を受けてこなかったことが災いして、その後のアフリカ戦線での指揮官の命や兵站を軽視するなどして、アメリカの参戦までにイギリス軍とのギリギリの戦いを最後には取り逃す伏線になった。

 本書に紹介されるロンメルの戦歴は素材としてそもそも面白く、しかし概要ですらあまりしっかり認識できたとは読み終えて思えなかったが、日本語の書籍で通説を刷新する、最新の学説はこうである、という紹介を一般書で読むことができて、とても楽しめた。

 すなわち、のちに別の信頼できる資料が見つかって学説が進み、現状の認識では、補給を軽視し、正しい記録を回顧録に残さなかったこと、総統暗殺のクーデターを知っており、加担していたことを明らかにしているところは、過去に人気を博し通説となっていた書籍・論文に対して歪曲されていたところを指摘する注意深い取り組みの成果であり、客観的な事実を追い求める尊い営みだと感じた(メディアや政治の力によって通説を歪曲する歴史修正主義に立たず、かくあってほしい、かくありたいと思った)。

「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 (角川新書)

「砂漠の狐」ロンメル ヒトラーの将軍の栄光と悲惨 (角川新書)