仮想通貨リブラ(2019/8/17)

 日経の「解読 リブラ」や、東洋経済の「デジタル通貨「リブラ」が普及するとどうなるか」が面白い。Facebookが別会社を立てて仮想通貨を発行するが、ステーブルコインという変動リスクを抑えた投機ではなく決済手段として成立するように計画を立ててカード会社などの協力もすでに取り付けているらしい。リブラ協会は仮想通貨の覇権を握るだけの根拠があるとばかりに白書に語っている。

白書:https://libra.org/en-US/white-paper/

日経:https://r.nikkei.com/topics/topic_DF_TA_19071700

東洋経済https://toyokeizai.net/articles/-/296910

 

利点

 世界銀行が、15歳以上で銀行口座を持たない人が17億人と試算した。彼らに利益があるのは真実だろう。途上国ではプリペイドでネット端末を使うことができるそうだが、貧困地域でビジネス、教育、育児をやろうとなったら、借金から始めざるを得ない。日本人ですら、借金のある人が作れる口座の条件はずっと厳しくなるのに、1日1ドルの生活をする人はそうそう金融インフラに乗っかっていけない。途上国から出稼ぎにきた人など、より安価な送金手段としての利用も需要がある。

政策的な難点

 いくら政情不安定な国でも、ずっと安定した通貨として利用できてしまうことになるリブラを国民が皆使い始めたら、どうするのか? 現地通貨の流通が縮小したら、通貨の発行を通じた金融政策はできなくなる。

 先進国でも、マネーロンダリング、ブラックマーケットでの決済に使われるのはまずい。原理的にはマイナンバーで管理される所得の把握が困難になる。ドルの偽造は米国が取り締まるし、ドル払いで大麻を売ったら罰せられる。こうした規制の元締めは通貨の信用創造をしている国の中央銀行が行っているが、リブラの場合は通貨バスケットにタダ乗りしている。システムが簡易な代わりに、その規制コスト分を各国にツケを回す。

 世界的な潮流で国がリブラを認可することがあるだろうが、リスクをわかってはいても、すでに起きた仮想通貨の流出同様、犯罪組織が巧妙な手口を用いて、日本の警察では摘発が非常に困難になるだろう。

技術的な難点

 何度も指摘されたブロックチェーン脆弱性は本当に解消されたのか? 3度目の流出で、金融庁は行政指導がまったく足りなかったと報告しているらしい。度重なる仮想通貨業者の事件について、それらが周縁的な部分での瑕疵だったとしても、コアな技術に対する否定もあって、国際決済銀行の年次報告書では、遅い、効率が悪い、スケーラブルではない、莫大なエネルギーを消費する、といった、ブロックチェーン決済手段としての欠点が挙げられている。決済システムの信用代金を払っているのが今の手数料だと思うと、信頼性も少ない通貨に切り替えるのは考え物だ。リブラ建ての債券は利率を高くする必要がありそうだ。

 今後の想像

  国際的な規制の順守の割合や発行主体に関する多様な差異あるリブラの亜種がいくつも出回るだろうが、発行同額の実体貨幣を協会が保有するカレンシーボード制の維持には高い参入障壁があって、それなりの信用を得られるリブラ亜種は少ないに違いない。

 日系企業が実証実験をやっていたJコインやMUFGコインは、ビットコインの後続のように、ステーブルコインで後出しをするのだろうか? その場合、銀行間で技術枠組みは共有しても、各行がバラバラに出したら、各仮想通貨はどこまで淘汰されるだろうか? 銀行はセブンペイのように信用を毀損するわけにはいくまいが、すでに独自のアーキテクチャーで実証実験を進めてきた米中系銀行がやりだしたら、見切り発車するんじゃないかと思う。

 既存の仮想通貨トレーダーやFXトレーダーはどれも買うだろう。仮想通貨取引所の技術力は国家ぐるみのハッカー集団に敗れることがあるだろう。大手銀行がそれをやると、公債の利率が上がって、格付けが下がる。中期的には、次の金融危機は仮想通貨がらみで起こりそう。